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December 2008 posts

December 10, 2008

<ある>と<ない>の境目の匂い

冬、季節はずれにあたたかな日の朝は、山間から流れてくるつめたい川の流れから、茫とした川霧が立ち上がる。

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向こうがまったく見えないかというとそうでもない。でも、向こうのすべてが見とおせるかというとそうでもない。世のせわしなさとはまるで無縁の、悠然としたすがたをしながら、今そこにあった霧だまりは次の瞬間、まわりのどこを探してももう見つからない。みぞれ降る深山の針葉樹林から、大水のたび川にしずむ中洲に今も立ち尽くす灌木から、河川敷いちめんの枯れた芝生に宿る朝露から、たとえどんなに淡くともたしかにそこにあった何ものかをいろいろと預かって、川霧は海へと向かい、おそらくは浜辺までたどり着く前に消えてなくなる。川べりのあちこちにそっと残された預かりものは、やがて堤防沿いの道路や橋をわたる車の列にかき混ぜられ、いつしか地を照らす日の光と自らを引き換えにして空へと、あるいはそのもっと向こうへと、還っていく。だからまだ昼とも夜ともつかぬこの時刻の、世のどれほど高貴な香木にも劣らぬほど時と距離を静かに秘めた川縁の香りを、ぼくは心から愛する。それがたとえ、<ある>ものであっても、<ない>ものであっても。

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December 07, 2008

午前4時のベランダ、微かな煙草の匂い

午前3時半、足元からしみこむような寒さに目を覚ます。土曜の仕事と吹雪の中を運転して帰ってきたのが思いのほか僕を疲れさせていたらしく、ろくに着替えもせず薄い毛布だけかぶってそのまま眠ってしまっていた。半分寝たままの頭で、リノリューム床の昭和っぽい冷たさだけを足裏で感じながら、石油ファンヒーターの電源を入れにいく。しばしぼんやり待つうちに、チチチチチとスパークプラグの鳴る音につづいてブオッと青い炎がともり、薄暗い部屋の底に淀んでいた冷気を、あの油臭いような懐かしいような暖気が大慌てで追い払っていく。

一息ついてカーテンをすこうし開けてみると、吹雪はもう峠を越えたらしく、雪の夜にだけ聞こえてくるあの特有の静けさが、町を覆っていた。ふと思い立って3脚にカメラを据え、町の夜闇にレンズを向けてリモコンでシャッターを切る。当然、

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こんな真っ暗な写真になるのだけれども、絞りを開き数秒間シャッターを開けたままにしておくと、

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低く垂れこめた雲や河原を覆う雪がぼうっと写りこんでくる。肉眼で見るのとはまたどこかしら違った風景に、なんだか不思議な面白みを感じて、寒空のもとコートを羽織って気の向くままにカメラをあちこち向けてみた。

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水色のつめたい橋の上を2台の車が連なって走る明かりがちろちろと見えたところで、15秒に設定していたシャッターが下りた。左下はこの近所で一二をあらそう枝ぶりの老いた桜の木が街灯のひかりを宿し、その左上には川向うの製紙工場の煙がはきだす水蒸気が、どこかの遠い星雲みたいな格好に写っていた。

そんな愚にもつかぬ遊びをしていたら、どこからともなく淡い煙草の匂いが漂ってきた。ふだん煙草をやらぬ僕は、気心の知れた人の吸う煙草のけむりならなぜか何ともないのに、見知らぬ誰かが街路のすれ違いぎわや食堂の背向かいのテーブルで吐き出す煙草の匂いには、いわく言い難い抵抗を感じてしまう。けれども午前4時すぎのどこかの部屋のベランダで、おそらくは僕と同じように雪の降り止んだ堤防や川向うの町をぼんやりとながめている誰かがくゆらせている煙草だと思うと、そんな誰ともわからぬ人の気配に、なんだかかすかな親しみというか、胸の底に軽い温かみさえ覚えてしまったから奇妙なものだ。僕はそんな頼りない気配に救われなきゃいけないほど孤独じゃあないと、頭では思っているのだけれどもなあ。

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December 06, 2008

大雪の降りはじめる5分前、地上15mの匂い

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誰の目にも見えないけれど、何よりも確かに透きとおってやわらかく冷たく湿った牡丹雪のような何ものかが、誰の耳にも聞こえない音を遠く近くいちめんにひびき亘らせながら降りしきる。やがて、まだ存在しない何ものかの密度が天と地の間で高まり充ちて溢れだす。感じ取れない何ものかに押しつぶされそうになりながら、その何ものかについて語るためのことばを持たない誰かは、それゆえに自らでさえそうと気づかぬまま、人生でいまだかつて一度も手にしたことのない驚嘆すべき新しさに満ちた世界の朝を、ややうとましげに、しかし慣れた手つきで、黙って迎える。この空の下に残された今日は、もうあとわずか17時間とすこししか、

ないのに。

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December 04, 2008

L'Aube Hivernale en Bleu Lavande

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気温6.9℃、南南西の風4m、湿度80%、気圧1023.9hPa。春のような秋のような朝、鳥が南に渡るのを見て冬を確かめる。今朝はかすかに、焼けた木、タールの匂いがする。どこかで枯れ枝や残り藁でも燃やしているのかな。日中の気温は昨日より4℃ほど上がり、明日からはまたぐんと冷え込むとのこと、できれば今日の仕事の合間にほんのすこしでも、窓を開けて小春日和の乾いた日向の匂いを嗅ぎ貯めておこう。

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December 03, 2008

ελεησον

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気温7.8℃、南の風風速4m、湿度70%、気圧1021.6hPa。町のあちこちに散り敷いてから何十回何百回と足に踏まれ車にひかれた銀杏葉やギンナンたちは、幾度か霜を宿すうちに、ここにいるよと大声でわめくがごとく匂いたっていた色も香りも手放して、ゆっくりと透きとおりながら、静かにしずかに土へと、或いはもしかすると天へと、還っていく。PLENI SVNT CÆLI ET TERRA GROLIA TUA。QVI TOLLIS PECCATA MVNDI。SVSCIPE DEPRECATIONEM NOSTRAM。

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December 02, 2008

Hail to December, from so far out of any hails

12月2日午前6時の天候は晴れ、気温2.2度、しかし湿度は96% - 漂うのはまちがいなく冬の朝の匂い、でもそれは主に、おそらくどんな高性能なガスクロマトグラフィーにかけたところでどうにも析出できない要素からなる匂い。しいて言えば、山の奥から採ってきた雪渓の奥底の薄青くすきとおった氷を、融けるか融けないかのぎりぎりの温度で保存しているフリーザーの、頑丈な扉を用心深くすこうしだけ開けて、鼻先だけつっこんで吸い込んだ空気の匂い。湿度の高い、しかしどこまでも透徹な、清浄なる冷気。

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「何もない」という形而上学的な状態にかなり近いなにものかを、ありつづける肉体とともにしか存在しえない嗅覚でもって捉えられる、それは実に、稀有な機会。

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